「470」国体予選出場

6期・主将 鳥越実路

 山大に470が入って来て、ちょうど一年目で国体予選に初出場することになった。国体予選とはいうもののヨット人口は少ないため、日常行われている草レースに少し毛がはえた程度のものだ。しかし我が山大にとって、日常の練習は470級3艇、スナイプ級6艇であったため自分たちの走りがいったいどれくらいのものなのかを知る機会が少なかった。特に470においては、当然高校生には無く、社会人も何らかの大会でないとほとんど海に出てくることがなかった。その意味からも国体予選は中国インカレを前にして大きな意義があった。

 今、国体予選を振り返ると、一体何レースあって何位で終わったのかさえあまり明確に覚えてはいない。しかし、そんな中でも二つの出来事ははっきりと覚えている。一つは風の気まぐれである。風がなく、次にどちらから吹いてくるかわからない状態でP旗が上がり、スターとポジションさえも決まらない中、刻々と時間だけは無くなって行く。わずかに吹く風に上スタートを感じ、母船のスタンすれすれからスタートラインを切ることを決断した。

 他艇を見ると下スタートを狙いリミットマークへ集まっている。スタートの号砲と共にわずかな風が吹き出した。幸運にも極端な上スタートであった。その時点でダントツのピンフィニッシュを確信しようとしている逸る心を押さえつつも風が止まらぬことを祈った。しかし無情にも上マーク途中で風がなくなってしまった。それでもゆっくりと後退する海面を眺めわずかに残る風に祈りにも似た希望をつなげた。しかし夏の風の気まぐれさか、実力のなさか、風は下の艇から後押しをして行く。次々に上マークを回航する艇を眺めているとティラーを投げ出してしまいたい感情が襲ってきた。

 もう一つの出来事は失格である。あまりいい走りが出来なかった中で一レースだけピンを狙える位置で最終の下マークを回航した。とにかく後は自分の走りだけだ。他艇との駆け引きよりベストのコースを一目散に走りたかった。それで負けたら諦めがつく。自分にそう言い聞かせて下マークを回航し、そのままスターボードタックで走る。そして一度タックを入れポートタックになりまた走る。前方からは商船の艇がスターボードタックでこちらに向かってきているが、ミーティングではバウを切れそうである。案の定1m位でバウを切れた。しかし相手艇の抗議の結果、失格になった。最低一艇身の余裕が必要とのこと。審問において多少食い下がってみるが審判委員長の首が縦に振れる気配はなく、「勉強になりました」と捨て台詞を言って席を立った。初めての失格、胸を突かれる思いであった。今思うと中国インカレでもそうであったが、国体予選においても絶対に勝ってやるという気合にも似た意気込みは絶えず持っていたが、勝てるという確信をどれだけもってティラーを握っていたのだろうか。勝たなければという気持ちがりきみとなって風車のように空回りし続けたのかも知れない。



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